free paper Dio(ディオ) vol.14 2013.11.1 walk  page1

      立沢の文化散歩

  
 −背後に雑木林を背負いながら、赤い屋根をした、いくつも惻翼のある、大きな建物が、行く手に見え出した。ー
 堀辰雄の『風立ちぬ』の一節だ。立沢への一歩はこの昔の高原療養所、今の高原病院(写真は堀辰雄が入院していた病棟)から始まる。駅からは数分。車なら近くの富士見町役場の駐車場に車を置かせてもらって、歩いて散策しよう。
 初冬の澄み切った青空の下、裾野を唐松林のベージュのもすそを広げている八ヶ岳を眺めながらの散策は気持を爽快にしてくれる。
 病棟は取り壊され、若い良家の子女たちが過して、さながら避暑地のホテルのようだったという当時の面影をしのぶよすがは失われたが、現在建設中の新病棟の一隅に、久米正雄、竹久夢二、堀辰雄らここで過した文人・画家の記念室が新設される予定という.
  目的地の立沢は長野県富士見町の東北に位置する高原の大きな集落だ。病院の前の道を東に辿ると下り坂になり、橋を渡る。その先少し行ったところを左折し、民家の間をしばらく行くと右手の岡の麓に植松自謙の墓がある。土地の人に聞いてみよう。
   
   遊・学 あんない
 free   paper Dio(ディオ)      Vol.14  2013.11.1 発行

編集発行 Dioの会  代表 福嶋朝治
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  free paper Dio(ディオ) vol.13 2013.11.1  walk page2
   自謙の墓
 彼は、ここ瀬沢新田の名主の家の生まれで、質素倹約を旨とする実践倫理を説く石田梅巌の石門心学を中沢道二に学び、全国に巡講した篤学の士であった.現在でも町内の「時中舎」において、彼の心学の伝統は生かされ、住民の精神的生活の支えになったいる。
 立場川にかかった橋を渡るとお寺の門前に出る。その周辺にはいくつかの石祠道祖神が祀られている。つくりは同じでも壁面の彫刻は異なっているので、ゆっくり見て廻ると面白い。
  立沢の集落は、川沿いの道を上る。高台に出たところで右に曲がる。立沢大橋の先を右に下ると、立沢の集落が広がっている。ここにはさらに多くの道祖神が点在している。 地区(組)ごとに競うように建立されたのだろうか。多くは街道に沿って並んでいるので、東から西へと歩くのがいい。石祠だけではなく、いくつかの露像の双体道祖神も見ることができる。石祠の室内に祀られているのは、石棒、丸石、双体神などである。石棒、丸石は言うまでもなく最も原初的な陰陽の象徴である。双体神の形態は、抱肩祝杯型、抱肩握手型などである。露像は自然石に双体神を浮き彫りしたものであるが、神明幣をあしらったものや対面して握手したものなどさまざまである。
 中でも優れた彫刻が施されているているのは明和5年(1768)の銘が刻まれている中下組の石祠道祖神である。その壁面にはダイナミックにうねる松の根や蓮の葉が彫られている。子孫繁栄を祈願して建立されたものであろうか。
 石仏ガイドブックなどを見ても、これほど豊富な道祖神があるのに、この立沢が紹介されていないのはまことに残念である。
 石仏を鑑賞したら、高栄寺を参拝してみよう。この寺の本堂は諏訪高島藩のお抱え宮大工の大隈流を継承する源内が建立したものである。
 富士見町の観光協会は何種類かの観光案内のパンフを出しているが、立沢の文化コースは無視されている。是非加えてほしいものだ。(T・M) 
 * 参考文献 『石の宗教』(五来 重)講談社学術文庫
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風の便り」など−武蔵野の菜園と公園について−

 太宰治の小説のいくつかに、主に夫人が耕していた家庭菜園が登場します。それは太宰文学の真髄とは別のことだと言われることを承知で、私はその菜園に関心が惹かれます。小説ですから、事実とは限りませんが、太宰は、庭木に愛着していましたし、作中に書かれた「トマト」「トーモロコシ」「お豆」は、今日でも人気の高い野菜です

 「わが陋屋には、六坪ほどの庭があるのだ。」と「失敗園」(昭和15年)にはありますが、借家もしくは建売住宅、マンションなどで、専用庭がそのくらいあるのはとても恵まれている方です。ウサギ小屋は脱したかのような今日においても、家庭で栽培できる果物野菜はニミトマトくらいですから、トーモロコシを植えることができるのは、うらやむような庭です。豪雨のあとに、倒れた苗木を起すことなどは、「風の便り」(昭和16年)にあり、力仕事は、書き手である夫が行っていた様子が読み取れます。子供が増え、仕事に追われる夫が手を貸さなくなったために、すっかり寂れた野菜畑のことは、「おさん」(昭和22年)にあります。長女が一粒の配給の豆を撒いたものが「ひょいと芽を出して」いるばかりであることが、妻の目を通して描かれているのです。
  野菜の苗を買いに行く暇もなく、また月日が過ぎ季節が変わり、太宰の小説に菜園の興廃が描かれていたことが、頭のなかで渦巻きます。都会生活者は忙しいことが宿命であると、野菜に告げられるような気もします。

                 *

 愛犬が散歩ぎらいになることほど、つまらないことはありません。子犬のころには、街中の遊歩道を勇んで歩いてくれたのに、次第に、自宅へUターンをうながすように足を踏ん張って歩行拒否をするようになります。室内では元気に走り回るのに、です。

 車に乗せて、野川公園まで連れて行くことにしました。犬は昔にもどったように嬉々として、木立の中の道を進みます。騒音がないことに安心するのかもしれません。リードをつけていれば犬を連れて入ることのできる公園が、東京にもあるのです。噴水に花壇、記念碑、文化施設もいいですが、愛犬と一緒に森林浴のできる公園は、何とも得がたいものです。
  広々とした空間が残されたのは、都市計画に携わる方々の思想によるものに違いありません。しかしながら、文系の私には、明治期に、国木田独歩が「武蔵野」を書いてくれたために、自然公園の楽しみ方が伝わったように思えてきます。都市にこそ、菜園と公園が必要であることは、生活と人生を注視する文学者ならではの発見であり認識ではなかったでしょうか。(ひ)

  free paper Dio(ディオ)vol.14 2013.11.1 bookreview page4 

新刊紹介

 「パリ大全―パリを創った人々・パリが創った人々」
              (以文社 20137月刊 4725円)                                            著者  エリック・アザン  訳者  杉村昌昭

 本書を手にしたときはちょうどベンヤミンの「ボードレールにおける第二帝政期のパリ」を読んでいる時であった。

 本書の構成は、巡視路(パリを経巡る)、赤いパリ、雑踏のパリを行くの三部構成になっている。巡視路(パリを経巡る)では、「建築、芸術、あるいは情緒の香りを」求めて、時間と空間を縦横に行き来しながら、存分に辿ってみせる。その視座は旧パリの章の末尾で引用しているベンヤミンの『パサージュ論』に倣っているように思われる。それを一言で言えば民衆主義の目線といってよかろう。

「赤いパリ」の章は、バリケードの象徴される庶民の革命の歴史を描く。ここでも「赤いパリの歴史は、被抑圧者の時間は元来不連続的なものである」というベンヤミンの一考察を、他のいかなる歴史よりもよりよく具現されたものの例証として、18307月革命から19685月革命にいたる市街戦の様相を詳述する。著者自らがアルジェリアやパレスチナの解放運動に挺身してきた経歴の持ち主であるだけに、歴史への鋭い切り込みには説得力がある。この記述に関しても、彼は革命の思想よりも革命行動がなされた市街に焦点を合わせることで、事件の生々しさを印象付けようとする。

 「雑踏のパリを行く」の章は、「遊歩者のパリ」と「美しいイメージ」に分かれる。前半は主に文学者の描くパリを扱い、後半は絵画や写真に切り取られたパリの街に焦点を当てる。個人的に関心を抱いたのは前半である。特にパリをさまよう孤独な散歩者として描かれるボードレール像は、読者に新たな感動を沸き立たせてくれる。

  free paper Dio(ディオ)vol.14 2013.11.1 bookreview page5

 「『悪の華』のなかで、詩作中のかれが描かれている唯一の箇所」としてベンヤミンは「太陽」の次の詩句を掲げる。

   わたしはひとり、風変わりな剣技の稽古に出かける

   街のすみずみに韻律の僥倖を嗅ぎ出し

   敷石につまずくように言葉につまずき

   ときには久しく夢みていた詩句にぶつかりながら。

 アザンもボードレールの作詩法をとく鍵がここに秘められているとして、全く同じ箇所を引用し、ここには一つの言葉と何時間も格闘しながら散策する「風変わりな剣士」さながらのボードレールの姿が、如実に映し出されていると説く。しかもボードレールが投げやりにではなく選択的、意思的に言葉を探し歩いていたことを、銘記すべきであるという。

 アザンはこのボードレール小論を締めくくるに当って、次のようなベッビャミンの「ボードレールにおける第二帝政期のパリ」の一節を紹介して、限りない親近性を表白している。「『悪の華』は、叙情詩において、散文的な起源の言葉だけでなく都市生活の起源を持った言葉を使った最初の本である。」

 『パリ大全』の原題は直訳すれば「パリの発明―失われた足跡はない」であると訳者は記す。パリに関係したことを洩れなく編纂した書物という意味で大全としたのであろう。確かにこの書には歴史的文化的なもろもろの事象が幅広く記述されている。その意味で「パリ案内の決定版」といえなくもない。
 しかしそれ以上に「民衆の、消え失せた跡」(ユゴー)を探索するアザンが自らの足で実証的に纏め上げた「パリ論」という性格を強く印象付ける書でもある。そのために訳者の推奨するように、「これからパリに出かける人にも、パリから帰った人にも大いなる効用がある」ばかりでなく、「さまざまな事情でパリに行けない人にとっても、有意義な時間を過せ」る書ともなっているのである。                         
(福嶋朝治)

  free paper Dio(ディオ) vol.14 2013.11.1 essay page6

L. Garrettの歌曲集:歌詞と歌唱      

 
 かつて、機内で音楽を漫然と聴いていたとき、ある曲に興味を惹かれた。言

葉は全く分らなかったものの、いささか大仰だが、その歌に欧州文明の諦念と

でもいうべき印象を受けた。早速、機内誌で調べたところ、歌手は
Lesley
Garrett
という英国のソプラノ歌手、歌はAuvergne地方の”Bailero”という民謡であった。
 寄港地シンガポールで早速探したところ、そのCDを見つけた。この歌曲集は年代順に全18曲あり、題は”So deep is the night”とあった。
 “Bailero”は第3番目の曲であり、原曲は仏語だがCDの説明書からその英訳を下記に記す。

Shepherd, across the water,
You are hardly having a good time”,
Said the Minstrel,
lero, lero, lero, lero, lero, bailero lo!

“And you don’t either, Minstrel”,lero, lero, lero, lero, lero, bailero lo!

“Shepherd, the meadows are in flower,
You should come here to graze your flock”,
 Said the Minstrel, lero, lero, lero, lero, lero,  bailero lo!

“The grass is finer in the meadows here, Minstrel”,
lero, lero, lero, lero, lero, bailero lo!

“Shepherd, I will do as you say,But there is a wide stream”,
Said the Minstrel, lero, lero, lero, lero, lero, bailero lo!

“Wait for me; I am coming to get you, Minstrel”,
lero, lero, lero, lero, lero, bailero lo!

 羊飼いと吟遊詩人は羊の餌場で言い争っていたが、結局仲直りする。明らか

に羊飼いは村を表し、吟遊詩人は余所者を表しており、異なる文化・慣習者を

相互に認めて共存を図るという地域社会の掟を表している。いささか大仰な印象は当らずとも遠からずというところか。 この歌曲集の7番目は
”Stabat Mater”というマリア賛歌の冒頭部分である。Giovanni Battista Pergolesi作曲(1729年)の大曲だが、この冒頭部分以外はマリア賛美の繰り返しで、異教徒にとってはいささか冗長である。その冒頭部分の英訳は次の通りである。

              The sorrowful mother stood
              Weeping by the cross
              Where her son was hanging

  free paper Dio(ディオ) vol.14 2013.11,1. essay page7

 十字架に掛けられた息子を見て泣くという、たった三行の歌詞である。しかし、
Garrett
の歌を聞くと、息子の死を嘆くというよりも、その苦悩を負って生きて行かな
ければならない悲哀を感じさせる。母性の業とでも言えようか。

   この歌曲集の題である”So deep is the night”は第16番目であり、Chopinのいわゆる「別れの曲」(1832)に歌詞(Sonny Miller,1939)を付けた歌曲である。

So deep is the night,
     No moon tonight
     No friendly star
     To guide me with its light;
     Be still my heart,
     Silent lest my love should
     be  returning

     From a world far apart,
     So deep is the night,
     O lonely night,
     On broken wings

My heart has taken flight
     And left a dream.
     In my dream our lips are blending,
     Will my dream be never ending?
     Will your mem’ry haunt me till I
      die?

     Alone am I,
     Deep into the night,
     Waiting for the light,
     Alone am I,
    I wonder why?
    Deep is the night.

  この歌詞は、愛する人を失った悲しみを癒すべく一條の光明を望むものの夜の闇の方が深く、滲み出る孤独の不安で終わる。この歌詞は神への信仰の喪失をも暗示している。そして、Garretの歌は、愛する人への思いよりも孤独の不安の闇の方を浮かび上がらせる。孤独の心の闇はそれほどに深いと歌う。
 歌曲集の組み合わせからは、個々の歌詞の意味とはまた異なる筋書きが見えくる。”So deep is the night”の歌詞における近代人は、”Bailero”で唱われる中世の掟と、”Stabat Mater”で通奏低音のよう流れる近世における人間の業と、近代において他人との関わりと神への信仰と、それらから解放され自由を獲得したが、同時に、孤独の不安という闇に襲われることになる。自由にして孤独な近代人は一條の光明を待ち望むが夜の闇は深くその光がどこから来るかもわからず、孤独の不安の闇はそれほどに深い。
    この歌曲集では、歌曲、歌詞そして歌唱はそれぞれ独自性を保ちながら相互に響きあい、聴く者の心に欧州近代人の諦念を髣髴とさせる。(岩崎輝行)

  free paper Dio(ディオ)vol.14 2013.11.1 information page8

 企画名など

期間(休館日は原則月曜)

料金     

開催館

ニッポンの少女まんがの元祖だョ!

松本かつぢ展          

〜12/24(火)

一般¥900
大・高¥800
中・小¥40
0

弥生美術館
文京区弥生
2-4-3
TEL 03-3812-0012 ,

乙女デコ&京都モダンのデザイナー

小林かいち展         
 ―大正〜昭和初期に花開いた絵葉書・絵封筒の美―

同上

弥生美術館と共通

竹久夢二美術館
文京区弥生2-4-2
TEL 03-5689--0462 

ムットーニワールドからくりシアターV

〜11/24(日)

一般 \500
学生(小学生以)・65歳以上 ¥250 

八王子市夢美術館
八王子市八日町8-1
ビュータワー八王子2F
TEL 042-621-6777

   特別展         生誕140年記念泉鏡   花展
   ―ものがたりの水脈

〜11/24
<日)

一般¥600 
65歳以上・20歳未満・及び学生  ¥
300

神奈川近代文学館
横浜市中区山手町110
TEL 045-622-6666

幸田 文  展

〜12/8(日)

一般 ¥700
大・高¥500
65歳以上・障害者¥2350 

世田谷文学館
世田谷区南烏山1-10-10
TEL 03-5374-9111

故郷文学さんぽ 
 軽井沢展 

〜11/15(土)

大人¥700
小・中¥300

軽井沢高原文庫
軽井沢町塩沢湖202-3 
TEL 0267-45-1175

  企画展

 与謝野晶子展 

  われも黄金の釘一つ打つ

〜11/24(日)

一般¥600
大・高¥400

中・小¥250

山梨県立文学館
甲府市貢川1-5-35
TEL 055-235-8080

  第82回企画展
 
 芥川龍之介の生涯

  
  あまりに人間的な

〜12/1(日)

一般¥400
大・高¥200
中学生以下無料

土屋文明記念文学館
高崎市保渡田2000
TEL 027-373-7721

 都築まい子展

11/15(金)〜1/5(日)

一般¥300
小・中¥150

高原ミュージアム 長野県富士見町3597-1   
TEL 0266-62-7930

  企画展  
  文学の彩り 
  ―山本有三作品の
  挿絵と装

2/23(日)まで

一般¥300
中学生以下 無料

三鷹市山本有三記念館
三鷹市下連雀2-12-27
TEL 0422-42-6233