三木露風研究

©福嶋朝治

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開設 2007年08月06日
更新 2026年2月014

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生田春月の日記―三木露風との交流        2026年2月14日

   

    生田春月の日記が米子市立図書館に保存されている。その中で三木露風に関係した箇所を

  碧川かた研究会の皆さんが解読した。そのコピーを会長の四井幸子さんが贈ってくれた。

   露風の日常生活が読み取れる部分を抜粋して、記してみたい。 

  

  生田春月は1892年2月に米子市に生まれた詩人で、1930年5月 没している。

  1908年3月、17歳で上京し、生田長江の書生となる。そして翌年6月帰郷した。

  露風との交流は、その間のことで、記録されている日記は、「自ら欺かざる日記(一)1908年10月

  23日が初出である。初めて会った印象を「三木露風と会ふ。詩は才人也。然し唯才人也」と記して

  いる。

  露風はその頃、『新声』の編集をしていて、度々生田長江宅を訪れていた。春月はその後露風に

  自分の作品の掲載を依頼したりした。『自ら欺かざるの記(二)の11月28日の日記では、露風が

  来て、春月のロセッチの訳詩のみを掲載して、「無能男」は没にしたことに対して作品があまりに

  傲語があるため没にしたのだろうと推測し、露風の配慮に感謝している。

   『無題』の日記の12月9日の項には、「三木露風は有明よりもえらくはなれず」と予言している。

  10日の日記からまとまった露風評を記しているので、そのまま引用する。

  10日

   三木露風君の如きは、順境で、八方美人主義で、円満派だから、悪くすると平凡になる。僕は

   圭角あり、光があり、閃きがある。それは迫害を受けるに違いない、戦って戦って刀折れ

   矢つきる迄奮戦する。(以下略)

 

 1908年「無題」(表紙欠)

   1910年1月10日以前

    三木露風氏は去年の夏、痲病にかかったさうだ。多分下宿料の残りを握って、鶴巻町辺のあ

   いまい屋かけこんだ為だらう。一体詩人はあんな病気に親しむべきだと思ふ。(ママ)僕はあれがいやで

   畏ろしくてならぬ。(中略) 先生(生田長江)もやられたと。2度目のは何も覚えが無いから、多分銭湯でやられた

   のだらうと。

  2月16日

    留守の内に三木君がだれかと二人きたさうだ。目白に転居して、彼方から汽車で来て、 一高の

   処まで行ってきて、帰りに寄るとの事。 帰って飯を食って居ると村田眉川詩が来た。

    眉川氏が帰ってから、又写真を出していろ話をした。あの大い写真が一番いい。三木君がほめた

   女を云って聞かして貰った。成程三木君がほめさうだ。(中略)

    

    三木君が来た。加藤と云ふ、温和さうな背の高い人を連れて、中々めかしこんで居る。三木式だ、

   頭の毛をコスメチックで固めて、それにこてをあてでもしたやうに縮らして居る。

    詩の話なんかいろいろ出た。而し、僕は近頃、詩や文壇の話よりも、女や恋の話の方が多く興味を

   引く。従って面白い。


    芋煎餅を食い、紅茶を飲む。三木君等は11時半と云ふに、驚いて帰った。毛d氏けだし


   1909年「平日記」(2月20日から28日)

  2月23日

    三木君も髪を仲々長くして居る。後ろの方にも長くして、ややさきをまがらせ、こてをあてゝ縮らし

   をり、コスメツチツクを塗りくりふりくる、乙に 気取ったものだ。悪趣味だ。あれだから女が惚れぬ

   のだ。三木君は鶴巻町の詩は歌へても、真に恋の詩は作れぬ。

  1902年「無題」(4月13日から18日)

   4月17日

     つづいて三木君来る。玄関に腰かけて談る。如才なし。秀才文壇の詩評余にせよとあり。氏の

    言は捕捉するにかたし。蓋し心太の類か。日暮にい及んで一緒に一緒に外出。氏余の顔の先生

    に似て来たりしを云ふ。夫婦とか、同居者とかは似てくるもの也と。但し、これもも勿論お世辞なる

   べきか。別るゝ時、時評、小遣銭にはなるとの事。   

 

  春月は6月に帰郷したので、その後の日記には露風に関する記載はない。


  春月の日記を読むと、露風はしばしば生田長江の家を訪問していたことが分かる。長江は『芸苑』に

推挙してくれた恩人だが、その後も親密な関係が継続していたようである。

 露風は1908年鶴巻町の同仁病院に入院したが、盲腸炎ではなく、淋病の治療のためであったことが

分かる。露風は子供ができなかったが、その原因が淋病のためであったと思い、悔やんだらしい。

 前田夕暮が、短身長髪の露風がよく訪れて、実に意気軒高たるものであったと回想しているが、春月の

記述は、より具体的に記している。

 露風は1910年3月に、親友の内海信之に、自分には抒情詩を書けない詩人だと告白しているが、春月

は露風が恋愛詩を書けない詩人であることを見抜いていた。


 露風は1908年10月に『新声』の編集に携わった。12月には目白台高田老松町の松老館に転居した。

秋から冬にかけて下宿屋を転々と移っていたが、ひとまず落ち着いた。そこに12月20日、9月に上京した

白鳥省吾が訪問している。彼は「新潮誌上の露風の清新な文語自由詩に心惹かれて」いたので、あって

みたかったのである。

 さらに翌年1月に自作の詩を携えて再訪している。その時に「その辺狼藉たる有様

で、手紙や葉書雑誌散らばり、ビール瓶2本とコップ二つ丸盆の上にある」といった「盃盤狼藉の残滓の座

敷を」目撃した白鳥は、強い抵抗感に襲われて、それ以後縁を切ってしまった。ジャーナリズムの寵児たる

20歳の露風の実像を目の当たりにした19歳の白鳥は、幻滅したのだった。

 露風は、1月には『新声』の編集を退き、2月には早稲田大学を除名されてしまう。3月には下旬まで沼津

の千本松原の沼津館に滞在する。春月の露風関係の記述がないのはそのためであろう。

 露風にとっては、この2年間は激動の時代であった。その内面生活の苦悩については、親友内海信之宛の

書簡に赤裸々に記されている。一言でいえば抒情詩人から象徴詩人への脱皮の苦悩である。

 その間の実人生の実態が春月の日記を通して、活写されている点で、大変貴重な資料である。

 

 

  

   

  

  

  「三木露風―抒情の変遷」 が刊行されました。12月5日発売。

       四六判並並製 208頁 定価1650円(税       発売元   はる書房 〒 101-0051 東京都千代田区              神田神保町1-44 駿河台ビル

                     tel  03-3293-8549

                                      fax  03-3293-855                       著者     福嶋朝治   

                     〒 408 0044 山梨県北杜市小淵沢町2957-1

                     tel  0551-36-6052

 

  

   

  「三木露風⋯詩の変遷」では、主に作品を通して生涯にわたる彼の作詩の変遷をたどります。  
  

    
投稿時代/ 短歌時代/ 二十歳までの抒情詩/  自然主義詩/
    口語自由詩の試み/ 詩集『廃園』の抒情詩 / 詩人の職分/
    内なる自然の構築― 白き手の猟人 / 詩篇「現身」の象徴性
       芭蕉論  / 豹変する自然 /  自然観の変質 / 童謡   /
     誠の道  / 晩年の詩作活動(2025年1月5日更新
 「露風紹介」では、露風の趣味、人物像、生い立ち、略歴が見られます。

 「作品を読む」では現在入手できる作品集の案内、作品鑑賞などが掲載されて
います。

  「三鷹の露風」では、昭和の初めから亡くなるまで40年近く過ご
した三鷹市における情報掲載します。 新資料の紹介などが閲覧で
きます。

 「研究書紹介」は、主な研究書の簡単な紹介です。
  「文献」では、露風に関して記述した参考文献および主要書籍の
一 覧を掲げました。   


  

    <主な編著作>


     三木露風 人と作品  教育出版センター 1985年刊
         詩的出発 / 自然主義の影響 / 口語自由詩の試み / 気分詩への同調 / 
         『廃園』詩風の確立 / 『廃園』成立事情 / 『寂しき曙』の世界 / 『白き手の猟人』の世界


     近代詩の思想  同    1997年刊
         自然主義と口語自由詩 / 印象主義と気分情調詩 / 生命主義と神秘象徴詩

     赤とんぼ  三木露風童謡誌集(CD付き)  ネット武蔵野 2006年
 

     三鷹で暮らした「赤とんぼ」  三木露風の歩み  はる書房  2007年刊
         「<誠>の詩人 三木露風」  「増殖する<赤とんぼ>」

     三木露風の世界  至文堂  2003年刊
         「三木露風と大正生命主義」

     三木露風評伝   電子書籍
         

     三鷹という街を書く大宰治   Ⅾioの会編集・発行 はる書房発売 2009年刊
 

                        

 

 

        

     

     

       

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