梅の豆知識 山梨県漬物協同組合(編)
うめ』という和名の由来
・中国から薬用として伝来した「烏梅※注1」を「うめ」と呼んだ説。
・「熟む実」が転訛して「うめ」となった説。
・寒中最も早く芽を出す「起芽(うめ)」から来たとする説。
・「うつくしくめずらしい実」から来たとする、貝原益軒の説。
その他諸説あり。
※注1 「うばい」と読み、未熟の梅を燻製加工した漢方薬。
分類・品種
梅は、バラ科サクラ属ウメ亜属に分類され、果樹として栽培される「実梅」と、観賞用に栽培されている「花梅」とに大きく分けられる。現在、梅は実梅だけで約100品種、花梅は約300種類あると言われている。
以下は、主な実梅の品種としてまとめてある。
歴史・時代考証
梅は東アジアの気候・風土とよく合い、原産地は江南地方と考えられ、中国では最も古い歴史のある果樹である。中国では、梅の花を見て楽しむよりも、梅の実を食用、薬用にするほうが先で、生活に密着していた。
奈良時代 奈良時代あるいはその少し前に、中国から日本へ梅が渡来した。当時、梅の実を燻製にした「うばい烏梅」として渡り、熱冷まし、咳止め、吐き気止めなどに用いられていた。『万葉集』に収められている梅の花を詠んだ歌は119首あり、萩の花を詠んだ歌(約140首)に次いで多い。この時代、梅は春に先がけて咲く花であり、まだ珍しく美しい花であったため、人々に大変愛されていた。
------------------------------------------------------------平安時代 延喜5年(905年)の『古今和歌集』以後の梅の花に関する歌では、香りを詠んだものが多くなった。香りを愛で、優美でものを思う表現として詠まれるようになった。また、梅干しは病に効果的であると注目された。村上天皇がご病気の折に、梅
干しと昆布入りのお茶でご回復した。万民にも施したところ、病気が平癒した。
------------------------------------------------------------鎌倉時代 この時代、臨済宗の栄西が茶の効能を説き、お茶菓子として梅干しを供していた。また、この頃、武家の食膳にも梅干しが添えられるようになった。しかし、この梅干しはおかずというよりは、解毒的意味があった。
------------------------------------------------------------室町時代 この時代には、梅干しは食膳に供されるようになったが、まだおかずまでには至らず、ただ見て唾液を催される役割、食欲を進めるためのものと考えられていた。
------------------------------------------------------------戦国時代 戦国時代になると、梅干しは薬として倒れた時や元気を失った時などに、唾液を催させる「息合の薬」として貴重だった。また、全国の武将は戦に備えて、城下に梅の植樹を奨励していた。小田原の北条早雲も、近海の塩田を開発して製塩をすすめ、城下に梅の木を植えさせ、梅干し作りに力を入れた。今でも小田原を始め、水戸偕楽園など城下町には観梅の名所が多いのもそのためである。
------------------------------------------------------------江戸時代 この頃、梅干しは一般市民の常備食品として食卓にのぼるようになった。大晦日や節分の夜に梅干しに熱いお湯を注いで飲む「福茶」という習慣や、お正月には梅干しを「食い積み」として神前に供える一品であった。また、文政10年(1827年)田辺藩は、良質の梅干しを選び、「紀伊田辺産」の焼印を押した樽で江戸に出荷して人気を博した。この頃から和歌山の梅干しは有名であった。更に、この頃の梅干しは、しその葉を使用した、現在見るような赤い梅干しが普及していた。 この他、梅干しは、激しい戦や長い行軍での息切れを整えたり、生水を飲んだ時に殺菌したりと大いに用いられていた。また、梅干しの酸っぱさを思い、口に溜まる唾液で喉の渇きを潤したり、傷口の消毒や出血の際の薬にも使われたりしていた。
------------------------------------------------------------明治時代 明治時代も梅干しは、病気に対する薬効が大きく、身近な保健薬であると同時に健康食品であった。明治10年7月から翌年6月にかけて、全国的にコレラや赤痢などの伝染病が大流行し、和歌山県の梅干しはこの時期に需要が大きく伸びた。明治37年には日露戦争が始まり、軍需用として梅干しの需要が伸びた。白いご飯の真ん中に赤い梅干しを埋めた「日の丸弁当」の呼び名は、この頃生まれた言葉である。
------------------------------------------------------------現 代 現在、塩分をおさえた味付梅干し、梅風味のお菓子、梅ジュース、梅ドレッシングなど色々と開発され、我々の生活に浸透している。また、昭和には皮が薄く、果肉が厚く梅干しにするには最高級の南高梅も開発された。
高南 梅干しとして最高品種と言われている。花は白く、開花期は2月中旬から3月中旬である。熟期は6月中旬から6月下旬である。
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白加賀江戸時代からよく知られていて、広く各地で栽培されている。関東が主要産地である。
花は白色一重、3月上旬から下旬に開花する。果実は、一個平均25gぐらいで、6月中旬から下旬に成熟する。果肉は厚く上質で梅干し用として適し、梅酒用などにも使われる。
------------------------------------------------------------養老 関東に比較的多く、花は淡紅色一重、開花は3月上旬から下旬。果実はやや大きめで、6月下旬から7月上旬と遅い成熟である。果実の皮がやや厚く、果肉は繊維質であるが酸味があり、梅干し用に使われる。
------------------------------------------------------------長束 中部地方が主で、花は白色一重、開花は2月上旬から3月中旬、果実は25g程度である。6月中旬には成熟し、果肉も厚いので、梅干し用に適している。
------------------------------------------------------------玉英 関東・中部にもあり、6月中旬に収穫できる。果実は30g程度でやや大きい。果肉は厚い粒がそろい、外観がきれいなので、梅酒にも梅干し用にもよいものである。
------------------------------------------------------------鶯宿 四国・九州などに多く、花は淡紅色一重、2月中旬から下旬に開花し、6月中旬から下旬に成熟する。実が大きく果肉も厚い上質のもので、梅酒用などに多く使われている。
------------------------------------------------------------古城 花は白一重で開花時期はやや遅く、収穫期は6月上旬から始まる。果実の大きさは25から30gくらい。果実の色は緑色で、果肉は厚く種子は小さく、耐病性があり、青梅としては一級品である。和歌山県下で多く栽培される品種で、梅酒やジュース用に適している。
------------------------------------------------------------豊後 東北・長野など寒冷地に多く、花は淡紅色一重、開花は3月中旬から下旬、6月中旬から下旬に成熟する。果実は特別に大きく、一個平均30g、大きいのは数10gにもなる。果肉は厚いが種も大きく酸味が少ないので、ジャムや梅酒などに多く使われている。
------------------------------------------------------------甲州小梅 関東・中部に多く、花は白色一重、開花は2月上旬から3月中旬、5月上旬から6月上旬に成熟する。一個平均4g程度の小梅類の一つでいわゆるカリカリ漬け、みりん漬け、焼酎漬けなどに多く使われている。
薬効
梅の実には、脂質、たんぱく質、糖質、食物繊維などの栄養素のほか、カルシウム、ナトリウム、鉄分などのミネラルが多く含まれている。また、梅干しなどの加工品にすると、殺菌効果のあるクエン酸、リンゴ酸などの有機酸も豊富になる。昔から日本人は梅の実がもつ働きを様々な形で食生活に取り入れた。その代表的な物は、「梅干し」や「梅肉エキス」、「梅酒」である。これらには殺菌効果、解毒効果、疲労回復効果、動脈硬化予防効果、老化予防効果など様々な働きを持っている。
民間療法10選
梅は民間療法として、昔から家庭の医学を支えてきた。以下は、様々な症状に合わせた、梅の民間療法についてまとめたものである。
風邪の諸症状 風邪の特効薬として、昔から利用されているのは「梅干しの黒焼き」である。梅干しをアルミ箔で包み、弱火で1時間ほど焼き、できた梅干しの黒焼きを湯飲みに入れ、熱湯を注ぎ、箸でほぐしながら飲むと効果がある。
------------------------------------------------------------熱がある時 風邪の引き始めには、湯飲みに梅干しの果肉を入れ、熱湯を注ぎ、おろしたしょうがを少量加えて飲む。梅干しの解熱作用と、しょうがの発汗作用で、ぐっすり眠れるはずである。
------------------------------------------------------------鼻づまりに 風邪による鼻づまりには、梅干しの果肉を塗り込んだガーゼを鼻に当て、湿布すると、効果的である。
------------------------------------------------------------のどが痛い時 梅を塩漬けにした時に上がってくる汁が白梅酢である。白梅酢にも強力な殺菌作用があるので、風邪でのどが痛い時など、ぬるめにした白梅酢でうがいすると痛みが取れる。梅酒や白梅酢を染み込ませたガーゼで、のどを湿布するのもいい。梅酒の湿布は、やけどや打撲傷の応急処置としても知られている。
------------------------------------------------------------乗り物酔い予防 梅干しを飴のようにしゃぶると、乗り物酔いをしにくいといわれている。
------------------------------------------------------------口臭予防 梅干しの殺菌作用により、口の中や胃腸が殺菌され、口臭のもとを断つことができる。
------------------------------------------------------------頭痛・歯痛腰痛を抑える 梅干しには、鎮痛作用があるので、頭痛や歯痛など様々な痛みを取る効果がある。
------------------------------------------------------------腫れ物や汗疹の治癒 すりつぶした梅干しの果肉に、小麦粉と白酢梅を加えて練り合わせたものを、腫れ物や汗疹(あせも)などの患部に当てて湿布すると、よく効くといわれている。
------------------------------------------------------------水虫や湿疹 梅肉エキスを10倍くらいに薄めて、そのまま患部に塗ると効果があると、昔から言われている。
------------------------------------------------------------肌荒れ お風呂上がりに梅酒を塗ると、肌荒れやガサガサ肌に効果があるといわれている。 疲労回復 疲労の原因は、体内に蓄積された乳酸である。その乳酸を分解してくれるのが、クエン酸である。梅の実には、クエン酸が多く含まれていて、梅干しにすることで、クエン酸の量も増える。
------------------------------------------------------------活性酸素の撃退 生活習慣病の原因として注目されているものの一つに、活性酸素がある。これは、遺伝子を傷付け、癌や動脈硬化を引き起こす。この活性酸素を減らす働きがあるのが、唾液に含まれる酵素である。唾液は、自然に分泌された量よりも、食べ物によって刺激されて出てくるもののほうが多い。しかも、梅干しによって刺激された唾液は、レモンの倍近くであり、質量ともに優れていて、からだに大変良い効果をもたらす。
------------------------------------------------------------便秘解消 梅干しを毎日食べると、便秘が自然に解消される。これは、梅干しに胃腸の蠕動運動の働きを活発にする効果があるほか、殺菌作用もある。
------------------------------------------------------------二日酔い解消 梅干しには、胃腸の粘膜を保護する働きがある。アルコールは胃腸からの吸収されるので、梅干しを食べることによって、胃を守ろうとする生体防御作用に働きかけ、胃腸を保護する粘液の分泌を高めることができる。つまり、お酒を飲む前に梅干しを食べておくと、胃の粘膜が保護されるため、アルコールの刺激を緩和できる。また、飲みすぎて、二日酔いになってしまった時に食べると、荒れた胃の粘膜の修復が早くなる。更に、二日酔いになると、体内は酸性に傾くが、アルカリ性食品の梅干しを食べると、からだが弱アルカリ性に変わり、二日酔いの回復を早める効果がある。
------------------------------------------------------------防腐作用 梅干しに含まれるクエン酸は、細菌を制御する働きがあり、食中毒菌の増殖を抑える働きがある。
梅の弱点
日本全国の平均寿命を都道府県別に調査すると、一般的に寒冷な地域のほうが短い。その原因は色々あるが、ひとつには食生活が大きな要素を占める。こうした寒冷な地域には、冬の間に必要とされる保存食が多く、その保存のために塩が使われている場合が多い。寒い季節が長く、あまり汗をかかないところへもってきて、三度の食事に食塩の濃い漬物が出されるので、どうしても取り過ぎになりがちである。これが、腎臓疾患や胃ガンなどの原因になると考えられている。
古来からの梅干し一個(約20g)には塩分約4g含まれているが、健康な人の、塩分一日の摂取量は約10g以下がよいとされていて、いくら健康のためといって、梅干しを大量摂取すると、塩分過多となってしまい成人病の原因となってしまう。しかし近年の低塩漬物の研究により、これらは大幅な改善が見られる。
また、青梅の生食は、中毒を起こすと言われている。それは、梅の実の種と木の葉には、アミグダリンという物質が含まれていて、このアミグダリンは酵素のエムルジン、あるいは弱い酸で分解され、そこからベンズアルミデヒドと青酸ができるからである。青酸と言っても、別に青くはなく、無色透明な液体である。これは、酸としてはとても弱いものだが、その毒性は恐ろしく強烈で、成人一人の致死量が0.06gといわれている。体内に入ると、呼吸酵素を阻害する作用がある。【参考文献】
・『梅干しを極める』(都築 佐美子著 日本放送出版協)
・『「梅」はこんなにからだにいい』(荒牧 麻子監修 株式会社講談社)
・『梅干しは超・天才食品』(川村 賢司著 株式会社ごま書房)
・『新・梅干しと日本刀 江戸・東京編―強靭でしなやかな日本文化のルーツ―』(樋口 清之、奈良 守康著 祥伝社)
・『ものと人間の文化史 梅T』(有岡 利幸著 財団法人法政大学出版局)
・『ものと人間の文化史 梅U』(有岡 利幸著 財団法人法政大学出版局)